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東京高等裁判所 昭和49年(く)206号 決定 1975年1月29日

少年 D・H(昭三二・五・一〇生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、少年および法定代理人親権者父D・M各作成の抗告申立書に記載されているとおりであるから、これらを引用し、これに対し、つぎのとおり判断する。

少年の抗告の趣意について

少年の主張するところは、要するに、今回の窃盗事件は警察で刑事さんから暴行されたので恐しくて刑事さんの作つた供述調書に署名したものであつて、右調書では、少年が単独で電気製品を盗んで質に入れたようになつているけれども、右は単独ではなく、A(一九歳)が盗んだものを同人に頼まれて少年とB(一九歳)が盗品と知らず入質したものであり、そのほか、○○石油というガソリンスタンド荒しの一件や○○印刷事務所荒しの一件も、少年の全く知らないことを無理に供述させられたものであるというのである。

そこで各少年保護事件記録を調査し、当審における事実取調の結果を参酌して検討すると、原決定が少年の罪となるべき事実としてあげている第一から第六の一ないし三の各窃盗の事実は、少年に対する各窃盗保護事件記録三冊中の各証拠書類により十分にこれを認めることができる。すなわち、罪となるべき事実第一については、

1  少年が右事件当夜、友人Cの家で、同人やBと遊んでいるうち、深夜Bから自動車を借りて独りで外出し、午前四時ころ帰つてきたこと

2  そのとき、少年の運転してきた自動車の後部座席に右第一の盗品であるカラーテレビ三台、カセットテープレコーダー三台、テープステレオ一台、トランジスターラジオ一台が積んであり、少年は「○大の友達に借りて来た」「質に入れて質札だけ友達に返せば良い」と言つて、Bにその入質を依頼したこと

3  少年は、夜が明けてから、「あとで自分が使用する」といつて右のうちラジオとテープステレオをCのところへ預け、同人やBと共に自動車でその他の品物の処分に出掛け、伊勢崎市、渋川市、前橋市の四軒の質屋にカラーテレビ三台、カセットテープレコーダー二台を計一一万円で入質し、残りのカセットテープレコーダー一台を入質しようとして同日午後三時三〇分ころ前橋市○○質店へ行き警察官に逮捕されたこと

4  少年は、右逮捕までに、入質金の中から八、〇〇〇円を自己の交通反則金を納付するために使い、その他昼食代等に二、三二〇円を費消し、質札の一部と残金とを所持していたこと

5  少年は、当日未明、右第一の盗品のうち、カラーテレビ一台及びテレビの台一個を自宅へ運んでおいたこと

同第二については、

1  右第一の事件のあつた翌九月二九日に、少年の母D・S子より右第二の盗難品であるカラーテレビ一台が警察に提出されたこと

2  右は、少年が、右第二の事件のあつた日のころ、「友達より借りて来た」と言つて自宅に持込み、自室で使用していたものであること

同第三については、

1  前同九月二九日に、少年の母D・S子より右第三の盗難品であるカセットデッキ一台外六点の電気製品が警察に提出されたこと

2  右は、少年が、同月彼岸のころ早朝、「お母さんに心配かけるようなことはしないから」と言つて、自宅に持込んだものであること

同第四については、

1  前同九月二九日に、少年の母D・S子より右第四の盗難品である計算機が警察に提出されたこと

2  右第四の被害現場には二箇の足跡が残されていたが、右足跡は、少年の父D・Mより提出された少年の運動靴と同一種類、同一サイズのものによつて印象されたものであることが認められること

同第五については、

少年は、昭和四九年九月二九日、Bに依頼して右第五の盗難品たる金盃二箇を一、〇〇〇円で入質していること

同第六の一ないし三については、

1  少年は、夜一〇時四〇分ころ、友人のDと共にそれぞれバイクに乗り遊びに出たとき、少年が「ガソリンがねえや、ガソリンのとれるところを知つているから行こう」と言出し、途中少年が近くのアパートから石油ポンプを持つて来て、右第六の一の被害者方のトラックよりガソリンを抜きとり、これを二人のバイクに入れたこと、また、Cの家で同人やB、Dらと午前零時過まで遊んでいるうち、Bが「ガソリンが無い」と言うと、少年が「盗みに行こう」と言出してDと共にBの自動車で出掛け、途中少年の家から石油携行缶を持出し、さらに右第六の二の被害者方軒下より石油入りの石油携行缶を盗み、これを持つて右第六の三の被害者方にいきそのトラック二台よりガソリン各一八リットルを抜きとつたこと

2  Cの父○○より右石油携行缶二こが警察に提出されたこと

以上の事実が、共犯者その他の各関係人の供述により認められ、これらの事実によると、本件の各犯行が少年の手でその一部はDを交えて行われたものであることがおおむね認められるのみならず、少年の司法警察員に対する各供述調書によれば、少年は以上の各犯行を全部自白していることが明らかである、少年は本件記録中の少年の司法警察員に対する供述調書が警察官の暴行や強制により作成されたものであるとして自己の犯行であることを否定し、当審における取調においてもこれに副う供述をしているので検討するのに、少年の取調に当つた司法警察員巡査部長○沢○博、同○須○義○の各上申書その他関係各証拠によると、警察官は少年の取調にあたつて、少年に対し暴行はもちろん怒鳴つたりした形跡も窺われないうえ、少年は右第一の犯行当日盗品を入質に行き逮捕され、当日右第一の盗品多数をすでに入質処分したことを認めたが、これらの電気製品は高崎の暴走族の首領である○○という者より入質を頼まれたものであり、その金を同日午後五時から六時の間に高崎のパチンコ屋で渡すことになつている旨申立てたので、捜査一課の刑事の半数を動員し午後九時ころまでそのパチンコ屋に張込ませ、少年のいう○○という人物の現われるのを持つたが、同人は姿を現わさず、高崎警察署へ少年のいう○○という人物の有無につき照会したところ、該当者はいないうえ、翌二九日家宅捜索を行なうと、少年の家から第一ないし第四の前記各盗難品が発見され、少年の母D・S子より提出されたので、これらの証拠や前記各証拠を少年に示して少年に尋ね、説得をした結果、少年は同日第一の事実を認め、その後引続き第二ないし第六の事実を順次認めるに至つたものであることが明らかであり、それらの供述を記載した少年の右供述調書の内容を調べても強制により作成されたとみられるようなあとは認められず、その後少年は、司法警察員より事件の送致を受けた検察官および検察官より勾留請求を受けた裁判官より、それぞれ右第一の事実につき弁解を求められた際、その都度これを認めて争わず、さらに、家庭裁判所において、少年調査官より二回にわたつて面接調査を受けたが、その際少年は、その面接時すでに家庭裁判所に送致のあつた右第一ないし第三の事実のみならず、当時司法警察員に対し自白していたがまだ事件の送致手続の済んでいなかつた右第四、第五の事実まで全部少年調査官に対し打明けており、一〇月二八日に行なわれた審判期日においても、裁判官より司法警察員の送致事実につき逐一これを読みきかされ質問されたが、いずれもこれを認め全く争うところがなかつたことに照らしても、少年の司法警察員に対する供述調書は、警察官が少年に対し暴行を加え、少年の供述に基づかず作成したものであるという少年の主張は到底採用することができない。なお、少年は、当裁判所における取調べにおいて、右第一の盗品は当夜Aという高崎の暴走族のリーダー格の者に入質を頼まれたもの、右第四の計算機は、その時一緒に預つたもの、右第二、第三の盗品は、八月ころAよりまとめて九万円で買つたもの、第五の金盃二箇は○田という○○高校を中退し、高崎のパチンコ屋付近で遊んでいる暴走族の一人より買つたものである旨いうけれども、右申立自体に矛盾や不合理な箇所があるのみならず、少年の申立てる人相、風体、経歴その他の特徴をもつAおよび○田なる人物の有無につき前橋警察署に調査を依頼したところ、該当する者がなかつたことに照らしても、少年の右主張は採用することができない。それゆえ、原決定には主張のような重大な事実の誤認は認められないので、少年の主張は理由がない。

少年の法定代理人親権者父D・Mの抗告の趣意について

その主張するところは、要するに、少年は、学校で片手落の取扱を受けており、警察でも不当な調べを受けたことがあつて、気持が変つたものであり、交通事故によりむちうち症となつているのに、中等少年院に送致するのは納得ができないというのである。

そこで、本件少年保護事件記録および少年調査記録を調査して検討すると、原決定が少年を中等少年院に送致するとしてその送致の理由として要保護性の項において説示するところは、すべてこれを肯認することができる。

すなわち、少年の非行は中学三年のころよりようやく顕著となり始め、河原に置いてあつたオートバイを窃取したため、昭和四七年一〇月一七日家庭裁判所において審判不開始の決定を受け、ついでその後間もなく路上に駐車中の自動車内より免許証などを窃取したため、昭和四八年四月九日家庭裁判所において不処分となり、同年一〇月成人一名と共に二人で、あるいは他の少年一名を交えて三名で、恐喝および窃盗の非行(うち一件は、屋内に侵入し、被害額一七万円に上る電気製品等を窃取したもの)各二件を犯し、同年一二月五日家庭裁判所において、保護観察処分を受け、本件各非行は、右保護観察中に行なわれたものであり、しかもいずれも深夜、単独で五回屋内に侵入して被害額九六万円に上る窃盗をし、また他の少年一名を誘い三回屋外で自動事よりガソリンを抜き取るなどの窃盗をはたらいたものであつて、犯行の態様、回数、被害額等にかんがみ、犯情が悪質であり、少年の犯罪的傾向が相当根深く定着し、非行程度も一段と進んでいることが認められること、少年は、昭和四八年四月私立○京○業大学第二高等学校に進学したが、学習の意欲に乏しく怠業による欠席日数がきわめて多く、怠業して遊び友達二名と九州旅行に行き、前記窃盗、恐喝等の事件を起したため停学処分となり、翌四月復学し留年して通学することになつたが、同年一月友人の運転するバイクの後部に乗つて遊ぶうち、乗用車にはねられ、頭部を打つてむちうち症となり、通院治療したものの身体の具合が悪いとかいらいらするといつて学校を休むことが多く、同年六月授業中非行をして無期停学処分を受けたため、夜おそくまで友達と遊び暮すうち本件非行に走つたものであつて、少年は現状においては学生として学校に適応し学校教育を受け容れる意欲や条件を欠くようになつたと認めざるを得ないこと、少年の父は、脳溢血のため右半身が不自由の身で木工として働いており、母は高血圧、心臓肥大等の病気を持ち、眼底出血のため眼がよく見えず通院中の身であり、いずれも少年に対し人一倍の愛情と期待とを抱いているけれども、盲目的愛情に陥りがちで保護能力に乏しいことなどを合わせ考えると、在宅保護による指導監督には多くの成果を期待することができないことが認められるから、この際少年を中等少年院に送致し、紀律ある生活のもとに適切な教育的措置を講じ、少年の社会規範意識、学習意欲、耐性等の向上を図り、その偏つた性格を矯正し、社会生活に適応するよう指導育成するのが相当であると思料されるので、これと同旨の見地に立ち少年を中等少年院に送致した原決定は正当であり、その処分が著しく不当であるとは到底認められない。少年の父は、少年がむちうち症であるから決定が不当である旨いうけれども、少年が交通事故によりむちうち症となつたことは前記のとおりであるが、治療を続けた結果おおむね治療しており脳波の検査も異常が認められず、今や少年は疾病その他の異常のない健康体であることが認められるから、少年院の矯正教育に十分適応できるものといわなければならない。したがつて少年の主張するところも理由がない。

よつて、少年法第三三条第一項、少年審判規則第五〇条により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 吉川由己夫 裁判官 瀬下貞吉 竹田央)

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